Research

研究内容

原子や電子、原子核や素粒子の世界の正しい力学法則は量子論です。ただし、厳密に言えば量子論には二つの理論があります。それは、『量子力学』と『場の量子論』です。多粒子系の量子力学の理論を「第2量子化」すると場の量子論の形式が得られることもあって、 両者が混同されることもありますが、力学法則としては異なる理論とすべきです。 場の量子論は、特殊相対性論の要請を満たすことや粒子が生成・消滅過程を記述できる(量子力学ではこれらは困難)こと、 素粒子・原子核・宇宙物理から物性物理の現象を記述することに成功してきたことなどから、最も基本的な力学法則とみなされています。しかし、場の量子論は完成された理論というわけではなく、解明しつくされていない未完成の理論です。我々は、場の量子論という力学法則を一層深く解明し、適用の対象を広げることを目標としています。

具体的テーマ

最近は主に次のテーマで研究を行っています。

Thermo Field Dynamics

熱的状況下における場の量子論(熱場の量子論)は未確立の理論であり、現在注目を集めています。Thermo Field Dynamics (TFD)とは熱場の量子論に対する実時間正準形式の定式化で、通常は混合状態期待値として与えられる物理量に対する熱平均を、空間を倍加することによって純粋状態期待値として表す形式です。特に、非平衡な状況下に対するTFD(非平衡TFD)では、系の非平衡過程を記述する運動学的方程式である量子輸送方程式を導出することができます。

TFDの特徴は、Closed Time Path法に代表される他の熱場の量子論と異なり、明確に定義された粒子描像・真空の上で議論が可能なことです。そのため、自発的に対称性の破れた場合や空間非一様な場合のような粒子描像が本質となるモデルにおいて、TFDは重要となります。

現在、我々は冷却中性原子系を理論検証の場としてTFDの定式化を研究しています。具体的にはTFDを冷却原子気体系に適用し、系の非平衡緩和過程の解析を通して理論の検証を行っています。最終的には、冷却原子気体系に限らない広い対象に適用できる理論へ確立していくことが目標です。

ゼロモードに関する研究

系の対称性が自発的に破れている場合、その系にはゼロモード(南部-Goldstoneモード)と呼ばれるゼロエネルギーの振動モードが現れることが知られています。例えば、BECでは大域的位相変換対称性の自発的破れが起きていると考えられており、BEC系にはゼロモードが現れます。このゼロモードは系の秩序を規定する非常に重要なものであり、理論を構築する際にはゼロモードをきちんと取り入れる必要があります(近年話題になっているHiggs機構はゼロモードを取り込んだ理論です)。しかし、特に物性物理において、ゼロモードをきちんと取り込んだ理論はほとんど存在しないのが現状です。

そこで、我々は手始めとして、BECの存在する冷却中性原子系を対象にしてゼロモードを陽に取り入れた量子多体系の理論(場の量子論)の構築を行っております。

Hubbard模型

Hubbard模型は少数のパラメータで超流動や超伝導、強磁性、反強磁性などの興味深い量子相転移を記述できる模型です。光学格子に閉じ込められた冷却中性原子系での実験結果とHubbard模型による計算は非常によく一致することが知られています。

我々は、Hubbard模型を多次元系の計算において有用なGutzwiller近似を用いて計算し、パラメータの変化による相の変化や、超固体などの新たな相の理論的予測を行っております。


Phase Diagram of Bose-Hubbard Model

2次元一様系でのBose-Hubbard模型の相図

(黒い範囲はMott絶縁体相、色のある範囲は超流動相が現れることを示している)


キーワード

冷却中性原子気体系

冷却中性原子気体系とは中性原子を磁気トラップで捕捉して極低温まで冷却した系です。1995年にはこの系においてBose-Einstein凝縮(BEC)が実現されました。

冷却原子系には様々な特徴があり、この特徴に付随する色々な応用が期待されています。その特徴の1つとして、原子間相互作用の弱い領域の実験が可能であるというものがあります。この領域においては摂動論を用いた解析が有効であるため、冷却原子系は摂動論を基礎として発展した場の量子論の検証の場として適しています。我々は冷却原子系のこの側面に注目し、理論検証の場として冷却原子系を扱っております。


Vortex Breakdown

量子渦の崩壊の計算結果の例

(図をクリックするとアニメーションを表示します)