Research

研究内容

原子や電子、原子核や素粒子あるいは宇宙の諸現象は量子論という物理法則に従っています。量子力学はニュートンの力学に取って代わり、「粒子が波的性質を持つ」とか「結果は確率的にしか定まらない」といった奇妙な内容を含む法則です。実験結果が量子力学の計算結果と一致するという意味でその正しさに疑いがありませんが、量子論そのものについて解明しつくされていない未完成の理論と言えます。また、量子コンピュータのように量子論を直接扱う応用も益々拡大しています。多数の粒子が関与する量子現象は極めて複雑なのですが、それに対しては『多粒子の量子力学』という立場でなく、『場の量子論』という立場がより基礎的と考えられています。本研究室では、場の量子論や量子力学という物理法則をより深く理論的に解明し、適用の対象を広げることを目標としています。

具体的テーマ

最近は主に次のテーマで研究を行っています。

ゼロモード量子揺らぎに関する研究

系の対称性が自発的に破れている場合、場の量子論ではその系にはゼロモード(南部-Goldstoneモード)と呼ばれるゼロエネルギーの振動モードが現れることが知られています。例えば、Bose-Einstein凝縮系では大域的位相変換対称性が自発的に破れていると考えられており、それに対応したゼロモードが現れます。このゼロモードは系の秩序を規定する非常に重要な役割を担っているため、理論を構築する際にはきちんと取り入れる必要があります。有限サイズ系ではゼロモードの量子揺らぎが大きくなることが予測されるのですが、ゼロモードをきちんと取り入れた理論が確立されていませんでした。
そこで、我々は手始めとして、冷却原子系を対象にしてゼロモードを陽に取り入れた場の量子論の立場に徹して理論の構築を行っております。また、最近では原子核内部で実現されているアルファ凝縮状態へと対象を広げて研究を行っております。

確率過程量子化

古典力学から量子力学を構築する手続きは量子化と呼ばれます。一般的に正準量子化や経路積分量子化といった方法が用いられています。仮想的な確率過程によって、これらの量子化と同等の結果を生み出す方法が確率過程量子化です。
 この確率過程量子化(Parisi-Wu流)は量子系に対する数値計算手法として活用することができます。その際、実数で与えられる量を複素数化する処方(複素ランジュバン法)が提案されており、これにより計算可能な対象が広がることが期待されています。そこで、我々は確率過程量子化を物性物理に現れる模型に適応し、計算手法の検証を行っています。また、系の動力学に対応した実時間形式の確率過程量子化(Nelson流)にも興味をもって取り組んでいます。

非平衡過程の場の量子論

場の量子論で記述される系が熱的状況下にあって非平衡過程をたどる現象に対する理論は未確立です。力学系としての複雑さを別にしても、場の量子論および熱力学・統計力学の根幹にも関わる問題でもあります。本研室の重要なテーマとして、Thermo Field Dynamicsという実時間形式で長年その定式化に関する研究を積み重ねてきました。成果として、様々な状況(例えば空間的に一様でない)での量子輸送方程式を導出しました。大きな課題として、粒子描像が大きく変化する相転移現象を伴う非平衡過程の理論に取り組んでいます。理論的に得られた結果の検証には、冷却原子系が最適と言えます。

量子開放系

量子開放系とは、孤立系とは異なり外界とエネルギーや粒子をやりとりするような相互作用をする量子系のことです。現実における物理系では完全に孤立している系というものは存在せず、その周囲の外界と何かしら相互作用しています。したがって、量子開放系に対する理論は、現実の量子系をより深く理解するうえで重要な役割を果たします。
 またそれだけではなく、外界との様々な相互作用により、物理系には様々な興味深い物理現象が生じます。このような系を扱う量子光学・量子測定・量子情報などの他の分野に対しても量子開放系の理論は広く応用することができます。
 我々は、非平衡熱場の量子論や開放量子系の理論を用いて、量子場・量子多体系の輸送現象や量子光学模型に超放射転移などを調べています。

キーワード

冷却原子系

冷却原子系とは、原子を磁気トラップ等で真空中に捕捉して極低温まで冷却した系です。1995年にはこの系においてBose-Einstein凝縮が実現されました。
冷却原子系は実験における制御の自由度が高い量子多体系であり、理論を検証する場として注目を浴びています。この系が有用である点として、粒子間相互作用の強さ、内部自由度、空間の次元等のパラメータを実験上で精密に制御出来ることが挙げられます。
その中でも我々は、原子間相互作用の弱い領域における実験が可能であるという特徴に注目しています。この領域は摂動論を用いた解析が有効であるため、冷却原子系は摂動論を基礎として発展した場の量子論の検証の場として適しています。我々は冷却原子系のこの側面に注目し、理論検証の場として冷却原子系を扱っております。


Vortex Breakdown
量子渦の崩壊の計算結果の例
(図をクリックするとアニメーションを表示します)